フランス・アンシャン・レジーム期の王令登録について下級裁判所による登録の実態を明らかにするために、本年度行った研究は主に次の二点である:1)下級裁判所による登録の具体例を、収集した資料に基づいて分析し;2)革命を経た後の民法典作成時における旧制下の登録制度に対する解釈について分析した。成果として次の点が挙げられる。1)については、特にpublicationの"public"を成り立たしめる場が、裁判と同様の三極構造をとることの意味と重要性について考察を深めた。王令の登録=公布には一定のフィクションが要請される。利害の対立する二者と中立的第三者(公権力=裁判官)が公開の場を設けて議論し一定の結論を導くという裁判と同様の構造は、「公」的なるもののフィクションを成り立たしめる重要な役割を負っている。2)については、特に民法典起草者ポルタリスによる王令登録の理解の仕方、下級裁判所による登録の位置づけ、およびpublication概念とpromulgation概念の変遷を明かにした。ここでは、ポルタリスがpublicationおよびpromulgationの中に法律の周知と承認の機能を認め、しかも各概念の区分、整理が民法典の策定過程(議会等での議論)を通じて変化することが観察された。 以上の考察の進展にあわせて、7回の研究発表を行い(一橋大学、北海道大学、関東学院大学、京都大学、新潟大学等)、法制史、フランス史、古典学および憲法、民法を専門とする日仏の研究者との議論を通じて、異なる角度からの分析を深めた。ここで得た考察をもとに、王令登録を中心論点とした論文「民法典と古法--序章を手がかりとして--」(北村一郎編『フランス民法典の200年』有斐閣所収、2005年2月脱稿)を執筆した。
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