本年度は、購入・収集した関係図書および資料に依拠しながら、現代の民主主義理論と環境倫理との緊張関係のカギとなる「進歩」概念を研究することをめざした。その際、進化論およびダーウィニズムにかかわる議論を再検討することを通じて、進化・進歩概念を思想史的に再検討するとともに、進歩概念の再構築を試みた。 以上のようなプランに従い、本年度は、まずダーウィンの進化論を批判的に読解し、19世紀から20世紀にかけて社会進化論の系譜を研究した。その際の一つの導きの糸は、20世紀の日本を代表する生態学者である今西錦司のダーウィン批判であった。ダーウィニズムからすれば、適応における個体間の競争が進化の主たる動因なのだから、進化のメカニズムが人間社会においては資本主義市場を創造するのは言わば当然のことだといえる。ダーウィニズムは個人を、市場における競争に参加するよう強制する。この点において、ダーウィンとスペンサーとの懸隔は、一部の研究者が指摘するほど大きくはない。 このような研究成果をもとにして、2003年8月13日にスウェーデンで開かれたIVR(法哲学・社会哲学国際学会連合)第21回世界大会に出席し、Special Workshop "East Asian Jurisprudence"にて、"The Impact of a Japanese Theory of Evolution on Legal Philosophy : Darwin versus Kinji Imanishi"というタイトルで口頭発表を行った。このワークショップには、アジアの研究者を中心に十数名が出席していたが、約15分の発表のあと、活発な討議が行われた。 その後は、進化論の現代的意義を検討しつつ、将来における言わば「人為的進化」である遺伝子工学による遺伝子改良が、人間およびその社会に与えるインパクトにも関心を向けている。このテーマこそ、人間の「進歩」が何を意味するかに関する、もう一つの重要な論点だからである。
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