H17年度は、3年間の研究を経て、研究テーマに関する一定の実証的知見を得られたと共に、それを基盤にして、実践的な紛争処理対応のあり方についての提言などを行うことが出来た。実証的なデータ収集の側面では、主として質問票調査の実施について、国内外ともに、医療機関等の協カを得ることが難しく、必ずしも予定通りに進んだとは言えないが、その代替として行った参与観察、インタビュー調査の結果、民事・刑事の法的サンクションが、現場の医療者に対して非常に防御的な姿勢を取らせ、紛争発生時にも、逆にネガティブな行動の動機となっていることがわかった。医学生については、同様の観点から、産科、外科、整形外科など、訴訟頻度の高い診療科への志望者が激減するなど、医療システム全体を危機に至らしめかねないリスクを将来していることがわかった。また、これら医療者の認識は、たとえば、事故時に謝罪すると訴訟上、不利になるなどという謝った認知がなされていることも判明した。これに対し、メディエーションなど対話型の紛争処理システムへの期待は高く、その有効性認知も高いことが判明している。こうした状況は国内外を問わず共通してみられる特徴であることもわかった。 これらの観察やインタビュー、一部の質問票調査による知見に基づき、これら対話促進型、かっ広範な論点を扱えるADR機関や、初期対応の技法の有効な展開が、事故時の医療者の対応のみならず、日常的な診療行為における医療者=患者関係をも改善し、ひいては、医療システム、そして患者側の利益にもなるとの視点から、様々な提言や論文、講演を通じた成果の公表を行ってきた。 ただし、データのすべての分析が終了したわけではなく、また異なる観点からも分析が可能であると思われ、こうした探求を今後も継続していく予定である。
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