1 阿蘇郡南小国町の黒川部落を舞台に裁判で争われた二つの入会権紛争は、牧野組合員による草原の古典的な畜産的利用と、入会地上の天然木に対する町(地盤所有権者)・黒川部落住民の貨幣経済的な分配利益への期待との調整に関わるもので、入会慣行の変容過程で生じる普遍的な性格をもつ紛争であったことがわかった。 2 判決で入会権者と認められた原告(部落住民)らが訴訟終結後に野焼き等の管理行為に参加するようになったことによって、畜産農家がわずかに2戸になった現在においても、草原が維持管理されていることがわかった。 3 畜産農家の減少および草原の畜産的利用の衰退により、入会地の維持管理が困難になりつつある牧野組合が増加している反面、NPO(阿蘇グリーンストック)に組織された都市住民(野焼き支援ボランティア)の参加が拡大し、草原の多面的活用のために草資源の事業化が試み始められたことが明らかになった。 4 草原の多面的な価値、とりわけその景観価値や水源酒養的・環境保全的機能が評価され、草原維持コストの都市住民による一部負担の仕組みも考え始められていることがわかった。入会集団によっては、ルールを守る都市住民には入会地を開放してもよいという意識も生まれつつあり、一定の負担を前提に都市住民にも入会地=草原に対するアクセス権をみとめてはどうかという考え方も登場してきている。 5 平成の町村合併の過程で町有入会地の帰属と管理負担をめぐって自治体と入会集団との間で協議が重ねられた。阿蘇市の誕生の過程では、阿蘇町と一の宮町の町有入会地については、入会集団との協議により多様な入会権調整の仕方がみられることがわかった。
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