本研究の目的は、12世紀後半イングランドで生じた国王ヘンリ二世とカンタベリ大司教トマス・ベケットの間の有名な論争である「ベケット論争」の法的・歴史的意義を、後者によって書かれた書翰の分析を通して再検討することにより、当時の王権と教権の関係について新たな光をあてて、「ベケット論争」を評価し直すことにある。このような目的を掲げた本研究の成果の概要は以下の通りである。 第一に、論争当事者であるトマスの書翰の写本を、イギリスの英国図書館、ボドリアン図書館、ケムブリッジ大学図書館、ランベス宮殿図書館において調査・閲覧し、マイクロ・フィルムないしコピィの形で入手することができた。 第二に、入手できた写本に基づいて、トマス書翰の中でも特に重要な二通「フラテルニターティス・ヴェストレ」書翰と「ミランドゥム・エト・ヴェヘメンテル」書翰を中心に、トマス書翰の内在的・論理的分析を行ない、当時の王権と教権の関係について新たな光をあてて、「ベケット論争」を評価しなおすことができた。 第三に、以上の検討結果について、その一部を、苑田亜矢・直江眞一「フラテルニターティス・ヴェストレ(翻訳と解説)--カンタベリ大司教トマス・ベケットの書翰--」、『北海学園大学法学研究』第40巻第2号、177-219頁、2004年として公表することができた。また、「ミランドゥム・エト・ヴェヘメンテル」書翰については、近く公表の予定である。
|