訴訟・非訟と判決・決定手続の組み合わせについては、a訴訟=判決手続、b訴訟=決定手続、c非訟=決定手続がありうるが、強制調停を違憲とする昭和35年最高裁大法廷決定によれば、aとcの区別は「性質上純然たる訴訟事件」かどうかに係らしめられる。そしてこの「純然たる訴訟事件」とは何かが明らかにされないことから、b領域は理論的に確定することが困難となる。その結果、決定手続を採用すればa領域の問題ではなく(bないしc領域の問題)、したがって、「純然たる訴訟事件=対審・公開・判決の保障」のテーゼが通用せず、非公開手続を採用することは憲法上問題ないと解することになりがちである。実際、民事訴訟法にイン・カメラ手続を導入する際の合憲論はこういう理屈をとったのだが、判決の帰趨を決する可能性が高いイン・カメラ手続を単に「決定手続」であるからという理由で非公開を正当化するのは憲法的には説明の困難なところがある。 a=公開・対審・判決、b=例外的に口頭弁論又は審尋(北方ジャーナル事件最大判)、c=憲法上の手続保障は語られず(立法政策あるいは司法裁量の問題)という構図は、ここにきてその維持が困難になっている。より直截に、このような枠組みをもたらした昭和35年大法廷決定の見直しが必要ではないか、とさえ思われる。即ち、「裁判」(憲法82条)=「裁判」(憲法32条)とするのではなく、憲法32条「裁判」は憲法82条「裁判」よりも広い概念と捉え、憲法82条が保障する公開・対審・判決が規定されていない形式のものでも憲法32条の「裁判」と解する余地を認めるべきであろう。これは憲法82条「裁判」≦憲法32条「裁判」と示すこともできる。司法のインフォーマリズム志向と密接に関連する訴訟非訟という二項対立は、当該手続に応じて手続保障を構築するという方向(手続基本権による司法裁量の統制という側面を含む)に転換すべき時期にきている。
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