研究計画初年度である今年度は、<共同利益の担い手の法主体化>と<公的事務の民間化>の同時進行状況を総体的かつ客観的に把握することを試みた結果、以下の点が明らかとなった。 <共同利益の担い手の法主体化>との関係では、横断条項を通して関係自治体や市民の意見を行政決定に反映させることを可能ならしめた環境影響評価法により、環境保護の枠内で共同利益の法主体化を促進する動きが進んだことを明らかにしたが、反面、我が国の環境影響評価制度は、社会経済的視点からの共同利益主体の関与を認めるものではない点で、不十分であることを明らかにした。他方、三面関係における第三者の原告適格を狭く解する判例状況に見られるように、共同利益の法主体化を阻害する動きがあることを明らかにし、かかる状況に対しては、「一般公益への吸収」型思考を克服し共同利益の法制度化を図る必要があること、そのための比較法的素材として、フランスの市民参加制度や非営利団体法制度が参考になることを明らかにした。 <公的事務の民間化>との関係では、事務委託やPFI事業の普及に伴い、公的サービス給付を民間事業者に委ねたとしても利用者の法的地位を確実に保護するための制度的仕組み及び救済法理論上の工夫が必要であることを明らかにした。また、そのためには、公役務の民間化を広く許容しながらも、公役務利用者の権利保護に意を注いできたフランスの行政契約法、とりわけその「公役務の委任」に関する法理論が参考になることを明らかにした。 以上のような二つの方角からの働きかけにより、行政の公共性は今日大きく変容している。そのような状況下での行政法理論には、国民の法的地位論の拡充、行政契約法論の深化、行政が果たすべき役割を論じる場の設定等々の課題が突きつけられていることを、明らかにした。
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