研究課題
(1)今年度は、欧州連合、イギリス、ドイツ等における近距離旅客輸送の民営化に関する理論と実態を中心に検討した。特に、フェーリング(Prof.Dr.Michael Fehling)「公的な近距離旅客輸送を例にした生存配慮の改革の考察」(DIE VERWALTGUNG 34.Band 2001)を参考に、様々のモデルについて考察した。それによれば、(1)まず、完全な民営化のモデルとしては、イギリスのロンドン郊外の近距離旅客輸送システムが指摘されうる。これは単なる届出義務のみ課せられ、一定の期間経過後は何時でも廃止できるものであり、最も自由な市場原理に合うモデルである。しかし様々な弊害も予想されうる。(2)次のモデルは、ロンドン市内の民営化モデルである。このモデルは中央で計画的に調整する組織が設けられるが、事業そのものは競争入札で市場原理に基づいて行われる。このモデルは欧州連合(EU)の新しい指令も推奨するものである。(3)しかしドイツでは、伝統的な生存配慮概念が前提としていた国家責任による交通経営を改め、保障国家(Gewaehrleistungsstaat)の観念のもと、最小限度の生存条件の維持を残そうとする。これに対して、フェーリングは、最も新しいモデルとして、最大限市場原理を尊重しつつ、環境保護や利用者保護の立場から、公・私協働の理念のもと、公によるものであれ民間によるものであれ、自主的な統一的計画調整組織を提案し、しかし同時にこの計画主体も公募により競争入札によることとし、かつ、経営主体も、事業主体も競争入札によることとし、かつ入札の基準も緩やかにとどめるべきとするモデルを提案しているのが注目されうる。(4)われわれは、このフェーリングの提案が、今後の日本の近距離旅客輸送又は近距離旅客交通のシステムの民営化にとっても大いに参考にすべきではないかと思っている。(5)このような意味で、われわれは、旅客の交通の便や環境保護に努める京都の京福電気鉄道(嵐電)株式会社の改革モデル、広島の近距離旅客輸送または近距離旅客交通システムに注目した。(6)今年度は、2005年3月に予定されていたシュパイア大学でのシンポジウム(ピチャース教授主催)に合わせて、ドイツ等で調査研究を行うことを計画していたが、ドイツ側の都合により、直前に2005年9月に延期されたため、ドイツ調査旅行計画を変更せざるを得なくなった。
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Kommunalwirtschaft im Europa der Region, Schrittenreihe der Houchschule Speyer (Rainer Pitschas / Jan Ziekoe(Hrsg.)) Band164
ページ: 95-108