研究概要 |
アジア太平洋地域における国内人権委員会の設立事情として,(1)内発的発展と多元的法文化実現の努力,(2)体制移行国における国内的・国際的圧力への対応,(3)民主化の進展と良い統治へとむかう体制改革の事例,(4)太平洋地域協力の象徴事例の違いがあることを明らかにした。組織と権限の概要についても,(1)裁判官主導型か社会の多元性反映型か、(2)中央集中型か地方分散型か、(3)対象となっている人権概念は何か、(4)人権侵害に対する調査権の射程、法執行官に対する教育的機能の実際、人権教育行政との関係、国際人権基準遵守の監視機能・政策提言機能の有無を検討した。 典型的な国内人権委員会は,人権侵害の訴えまたは政府による行政の誤りに対応して拘束力ある決定を下す権限をもたないが,人権保護と行政行動の監督において価値ある役割をはたしている。民主主義が確立されている諸国では,それは通常,裁判所や特別裁判所を含めた民主的な機構のより広いネットワークの一部として権限を行使する。他方,民主化過程の途上国においては,司法制度が政治化され、時間がかかり,さもなければ無力化されているという状況のなかで,当該機関は,人権救済と調査のための価値あるフォーラムを提供しているために,より中心的な役割をはたすことができるのである。 ただし,国内人権委員会が効果的に機能できるかどうかは,以下の要因にかかっていることが,一般に指摘されている。すなわち,国家の民主的なガバナンスの構造,政府からの独立性の程度,管轄権の範囲,調査権を含めた権限の十分性,公衆のアクセス度,他の政府機関との協力のレベル,運用上の効率性,説明責任,当該機関の長に任命される人の個人的性格,当該機関の活動に対して受容的な態度を示し,国内人権機関を政治化しないという政府の行動様式,民衆の目からみた当該機関の信頼性が,それである。
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