本研究によって、アジア太平洋地域の国内人権委員会は、おおむね各国における人権の確保と促進という設立目的に沿った活動をしていることが確認できた。典型的な国内人権委員会は、人権侵害の訴えまたは政府による行政の誤りに対して拘束力がある決定を下す権限を持たないが、人権保護と行政活動の監督において有用な役割を果たすことができる。研究の対象としたアジア太平洋地域の民主化過程諸国における国内人権委員会は、司法制度自体が弱体で政治化され、時間がかかり無力化されているという状況の中で、人権侵害の救済と人権侵害の調査のため価値あるフォーラムを提供している。 本研究の実施によって、国内人権委員会が効果的に機能できるかどうかは、以下のような諸要因に規定されているという知見を得た。すなわち、国家の民主的なガバナンスの全体構造、政府からの国内人権委員会の独立の程度、国内人権委員会の管轄権の範囲、調査権を含めて国内人権委員会に与えられている権限の十分性、国内人権委員会に対する公衆のアクセス度、他の政府機関と国内人権委員会の構成員(委員)の特質、政府の国内人権委員会に対する受容度および非政治化に向けての努力、公衆の信頼性がある。 また、地域協力機構である「アジア太平洋地域国内人権機関フォーラム」における着実な相互協力と技術援助の進展によって、アジア太平洋地域における「人権保障メカニズム」の構想と具体化と制度設計に向けて、各国の国内人権委員会の果たしている役割と実績には大きなものがあることが確認できた。
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