研究概要 |
平成15年度は以下の3点について明らかにした。 a.成年後見制度における知的障害者の人権について 知的障害者の人権擁護の立場から,知的障害者の自己決定権に関わる問題に着目して検討した。特に,2000年に施行となった成年後見制度により,民事面での知的障害者の自己決定能力判定に大きな変更が加えられ,これまでの禁治産・準禁治産制度が貢献・補佐・補助制度に変わった。それに伴い障害者の「能力」判定の手続きや基準が改めて問われている。今年度は知的障害者の場合を精神障害者,高齢者,未成年者の場合と比較検討した。その結果,知的障害者では,軽々に「能力」を認めると,かえって当人に不利益になる決定を正当化してしまう事例があり,自己決定権の保障とパターナリズムによる保護との関係の調整について更に詳細に分析する必要があることが分かった。 b.福祉施設サービス選択における情報提供の実態調査 厚生労働省の施設評価事業に基づくサービス提供者の側の情報開示について,東京都と愛知県を中心に情報収集し,分析した。その結果,今日までのところ,高齢者施設や保育園などと比較して知的障害児・者施設における施設評価事業は大きく進展していないため,きわめて不十分な状態にあることが明らかになった。 c.「障害者の人権」意識に関する調査 これからの人権教育を考える基礎資料とするために,社会における「障害者の人権」意識を明らかにするためのアンケート調査(予備調査)を行い,人権意識に関する尺度構成を試みた。尺度は,特に障害者の自己決定権に関する意識の違いを高齢者や未成年者との比較において把握できるよう多元的に構成された。今後,標準化の手続きを経て,教員・福祉関係者・学生等を対象に調査し,日本人の人権意識の特徴を明らかにする。
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