研究概要 |
平成15年度の成果を踏まえて,今年度は次の2点に焦点を絞って検討した。 a.知的障害者の人権について:未成年者との比較 知的障害者の人権擁護の立場から,知的障害者の自己決定権に関わる問題に着目して検討した。未成年者は知的障害者と同様,意思能力が未成熟であるという理由で法的行為が認められないことがある。そこで,本研究では未成年者への医療行為(治療)に対して同意・拒否する権利について判例を分析し,知的障害者のケースと比較検討した。英国では未成年者の権利についてギリック判決が画期的な判断を下し,未成年者でも十分な理解力があれば,親の同意がなくても,単独で同意する権利があるとされている。しかし,その後,単独で同意する権利は認められるものの,単独で治療を拒否する権利は認められないとする判決が出され,今日にいたっている。未成年者に対するこのような権利の制限は主に教育的配慮からなされているが,知的障害のケースではアドヴォカシーの観点から同様な配慮が必要であろう。 b.人権意識の検討:パターナリズム尺度作成の試み 社会福祉基礎構造改革の中で利用者本位・患者本位の福祉・医療サービスへの転換が求められる現在,福祉・医療従事者にも意識改革が必要である。利用者本位・患者本位とは自律尊重原理の確立を意味しているが,この原理はこれまでの福祉に支配的であった仁恵原理と葛藤を生むことがある。そこで,両者が対立する時のジレンマ判断課題を用いてパターナリスティックな干渉を正当化する信念の個人差を測定するための尺度の開発を試みた。尺度としての信頼性を高めること,福祉・医療の専門教育の中で活用できる形式を整えることなど,今後の改良に向けての問題点が明らかになった。
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