本年は、次の4つの作業を行った。第1は、国際刑事裁判所規程の立法過程における諸問題について、条約作成過程に関わった当事者に、作成過程上の問題、条約実際細目の作成上の問題点の聞き取りを行った。特に後者の実施細目に関し、質問項目に上げた論点については、国際裁判としての信頼性を高めるための慎重な手続化がなされていることが示された。第2に、国際人権の位置づけについて、従来のように、社会権と自由権との関係を分離説と一体説の対立という角度から問題にせず、国際社会では歴史的になぜ社会権が自由権に先立って登場したかを、国際法における人権の正当化の角度、特に人権基準をなぜ国際的に一律化する必要があったかという角度から分析し、その結果、人権の制度化が国際競争秩序および国際安全保障の維持と結びついてきたこと、その点で、国際人権は主権と対立させる概念ではなく、国際福祉社会論の立場から主権に補完的な基準として位置づけられるべきことを、暫定的な結論として位置づけ、法理論研究会で報告した。第3に、国際法学会からの「国際紛争の統合的アプローチの模索」と題する年次大会における報告依頼に対して、その問題を、国際公共利益の制度化、とりわけ国際公共利益の国際立法の不備が国際紛争を複雑化している問題として位置づけ、その問題への対応は、いかなる国際秩序論に基づいて公的対応を構築することが必要であること、それ故に理論的には、実効性を持たない制度の妥当性の秩序論的再検討が必要であることを報告した。最後に、武力紛争法の研究の一環として、国際的な公的秩序の観点から、中立制度をどのように位置づけるべきかを検討し、中立の歴史研究および、第二次大戦後の事例の位置づけについて、事実と規範の関係の理解が逆転することが必要であることを論じた。
|