本年度の中心的な作業は、近代通商条約における外国人の身体・財産の保護規定の典型を形成した1826年のイギリス=メキシコ条約の形成の前提となった、「特別の保護」という定式を採用するアメリカ合衆国の通商条約の実行の検討であった。そのため、国内で入手できる資料の(再)検討をするとともに、合衆国公文書館で、条約交渉過程の文書を検討した。研究の成果として判明したことは、この定式は、やはり1824年のコロンビアと合衆国の条約を最初の例とすること、この条約の交渉過程では、この定式がむしろコロンビア側の主導により導入されたこと、合衆国の側には、この定式について特別の問題意識をもった形跡がないことが判明した。したがって、さらに、この定式についてのコロンビア側の意図を探ることが重要であることがわかった。 上の中心的作業を補完する形で、外人法-国家責任-外交的保護の法制度の現代的形態について、実行と理論をフォローする作業を継続的に行っている。その一環として、国際法委員会における「外交的保護」条文案作成作業をフォローし、現在まで暫定採択されている条文の訳を試みている。現在は、講義の教材としてのみ使用しているが、国際法委員会の作業が一段落した段階で、なんらかの形で公表したいと考えている。
|