平成16年度は2年間の本プロジェクトの最終年度ということもあり、関連する事例研究の検討を引き続き行いながら、最近の国連平和維持活動にみられる活動原則の特徴のとりまとめ作業にも着手した。具体的には、前者については、国連憲章第7章に基づく行動が援用されたごく最近の事例であるコートジボワール内戦を取り上げ、現地に展開した国連コートジボワール活動(ONUCI)の概要を検討した。また後者の活動原則の考察については、すでに同意原則に関する小論を公表したことから(拙稿「国連平和維持活動における同意原則の機能-ポスト冷戦期の事例を中心に-」安藤仁介・中村道・位田隆一編『21世紀の国際機構:展望と課題』(東信堂、2004年)237-278頁)、同じく国連平和維持活動の基本活動原則の1つである中立・公平原則を扱った。これらはいずれも、後述のように雑誌論文として公表予定である。 今回の研究では、原理的に相容れないとされてきた強制措置の発動を対象とする国連憲章第7章の行動と中立・公平を旨とする平和維持活動の関係をとりあげ、なぜ両者が同一の活動中に並存しうるような事例が90年代末以降生じてきたのかに焦点を当ててきた。今年度の研究対象の1つであったONUCIに関する限り、すでに検討した国連シエラレオネミッション(UNAMSIL)、国連コンゴ共和国ミッション(MONUC)、それに国連リベリアミッション(UNMIL)と同様、関係当事者による憲章第7章に基づく行動の導入に関する事前の同意が存在していたことが確認された。またこれも他の多くの事例と共通するように、多国籍軍としての地域的機関の軍(ECOMICI)を前置させ、その後継機関として任務や実施手段を引き継ぐという方策もONUCIの事例では踏襲されている。活動原則の1つである中立・公平原則については、ONUCIをめぐる関係当事者がその原則の維持と妥当性を強調していたこともあり、実行上は尊重されていたといえる。 この中立・公平原則が最近の国連平和維持活動で理論的にどのように整序されているのかについても別途考察した。その結果として、伝統的国連平和維持活動においては当時の国際情勢と国連の役割に由来する実践的機能的条件や国連の中立的性格という制度的規範的条件に基づき成立した同原則が、90年代以降の外的状況の変化によりその成立基盤が揺らぐことで適用が困難となった後、和平合意の遵守を基調とした法執行上の平等性へとその内実を転換させることにより、最近の平和維持活動の活動原則として適合的な地位を獲得したと考えられる。 さらに自衛原則や国連平和維持活動と日本の政策にも検討を拡大する予定であったが、時間的な制約のためそれには至らず、現時点では具体的な研究成果として公表できていない。しかし自衛原則については現在、鋭意執筆中であり、後者については今秋の国際法学会の研究報告で明らかにされる予定である。
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