平成15年度は資料収集を中心としながらも事例研究を進め、具体的にはコンゴ民主共和国に展開している国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)と、第2次リベリア内戦を契機として現在も現地に展開中の国連リベリアミッション(UNMIL)について、それぞれの活動内容を検討した。これら2つの国連PKOは、ともに国連憲章第7章に基づく行動として国連安保理に承認を受けたものであることから、従来の国連PKOの活動原則である同意原則や自衛原則との関係が潜在的には問題となる事例であった。もっとも、MONUCもUNMILも、これに時間的に先行する国連シエラレオネミッション(UNAMSIL)などと同様に、関係当事者の同意を得て現地展開を開始しているのであり、その意味では関係当事者の同意を要するという意味での同意原則との抵触はさほど議論とはならない。むしろ、具体的局面で憲章第7章に基づく行動の一環として武力の行使を行うことによる任務の遂行が自衛原則との関係で問題をはらむものと認識される可能性があったことが明らかとされた。 また平成16年度の研究では、原理的に相容れないとされてきた強制措置の発動を対象とする国連憲章第7章の行動と中立・公平を旨とする平和維持活動の関係をとりあげ、なぜ両者が同一の活動中に並存しうるような事例が90年代末以降生じてきたのかに焦点を当ててきた。研究対象の1つであったONUCIに関する限り、すでに検討したUNAMSIL、MONUC、それにUNMILと同様、関係当事者による憲章第7章に基づく行動の導入に関する事前の同意が存在していたことが確認された。またこれも他の多くの事例と共通するように、多国籍軍としての地域的機関の軍(ECOMICI)を前置させ、その後継機関として任務や実施手段を引き継ぐという方策もONUCIの事例では踏襲されている。活動原則の1つである中立・公平原則については、ONUCIをめぐる関係当事者がその原則の維持と妥当性を強調していたこともあり、実行上は尊重されていたといえる。 この中立・公平原則が最近の国連平和維持活動で理論的にどのように整序されているのかについても別途考察した。その結果として、伝統的国連平和維持活動においては当時の国際情勢と国連の役割に由来する実践的機能的条件や国連の中立的性格という制度的規範的条件に基づき成立した同原則が、90年代以降の外的状況の変化によりその成立基盤が揺らぐことで適用が困難となった後、和平合意の遵守を基調とした法執行上の平等性へとその内実を転換させることにより、最近の平和維持活動の活動原則として適合的な地位を獲得したと考えられる。
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