本年度は、(1)国際刑事裁判所(ICC)に対応した犯罪人引渡・捜査共助に関する各国の国内実施立法の内容、(2)混合刑事裁判所における国内法の機能、の二点に関して研究を行った。 (1)に関しては、イギリス、オランダ、ドイツなど新たにICC協力法を制定して対応している国と、カナダのように既存の犯罪人引渡法、刑事共助法を改正して対応している国がある。しかし、いずれにおいても、具体的なICCからの容疑者引渡請求や証拠等の提出請求に対しては、個々の国家の伝統的な国内手続を準用する傾向が見られる。このため、ICCからの協力要請に対し、これを拒絶する規定を持つ場合がある(たとえば、カナダ法では双罰性の原則などが維持されている)。また、検察官による関係国家領域内での直接的な捜査行動(lCC規程99条4項)など、国家間の司法共助では見られない手続に関しては、これを担保する国内法規を持たない国が多い。こうした点を踏まえて、来年度は日本における国内法の対応に関して検討を行う予定である。 (2)に関しては、シエラレオネ特別裁判所、コソボ・パネル、東ティモール・パネル、カンボジア特別裁判部の検討を行った。とりわけ、シエラレオネとカンボジアにおいては国内法が裁判実施に重要な役割を果たしているが、前者が裁判所を設置した国連・シエラレオネ間の協定の技術的な国内実施立法としての性格を持つのに対して、後者においてはカンボジア国内法が裁判部設置の直接的根拠となっており、その運営に関しても国内法が主導的な役割を果たすことを解明した。混合刑事裁判においては、協定と国内法との関係が、その「国際的」ないし「国内的」性格のバリエーションを判断する上での重要な基準となることが明らかになった。来年度は、こうした角度から、種々の混合刑事裁判の類型化を試みる予定である。
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