今年度においても、国連海洋法条約を軸としながら形成・展開している現代海洋法秩序の構造的な特色を析出する作業に取り組むことに集中した。 具体的には、「海洋保護区(MPA)」の検討に、特に時間を割いた。MPAは、国際海洋法と国際環境法の両分野に関係をもつ、国際法思想の新しい潮流であり、今後の海洋秩序再編の鍵を握る概念でもある。MPAは、海洋の特定の区域において設定され、そこにおける人間の活動を様々に規制しようとするものである。MPAの主張の背後には、海洋の生物多様性の保護という課題がある。注視すべきは、21世紀に入り、国家管轄権の限界を超える海域、つまり公海にもMPAを設定すべきだという主張が強められていることである。かかる主張は、公海自由の原則と正面から抵触するものであり、MPAをめぐる動き如何によって、海洋秩序の抜本的な再編が促進される可能性もある。2005年10月には、豪州で「第1回国際海洋保護区会議」が開催されたので、そこへも出席し調査を行った。今年度は、MPAに関係する一般多数国間条約、地域条約、主要国の実行を整理すると共に、公海MPAの主張が生まれてくる経緯とかかる主張の法的問題点を検討し、MPAが国連海洋法条約を軸とする海洋秩序に及ぼす影響を分析した。研究成果の公表は2006年度の予定である。 以上のほかに、沿岸国の200海里以遠の大陸棚の限界を画定するため、大陸棚限界委員会の活動が始まっているが、その活動の現状と共に、同委員会が行う勧告の法的地位に関する検討を行った。また、大陸棚資源に関しては、日中間で懸案となっている東シナ海のガス田の開発問題の解決にあたって参考にすべき国際法判例の紹介・検討も行った。全体として、3年間で達成し得た成果は、当初の予定の通りにはいかなかったが、残された諸課題については、引き続き検討を続け、2006年度以降に順次成果を公表したい。
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