研究概要 |
3年間にわたる研究では、主として次の二つの観点から、研究課題の解明に努めた。 第一は、国連海洋法条約を軸としながら形成・展開している現代海洋法秩序の構造的な特色を析出することである。具体的には、船舶航行制度に関する諸問題、ならびに、海洋資源開発に関する諸問題の検討を行った。前者に関しては、無害通航制度と武装強盗・海賊の規制問題に焦点を当てた研究を行い、国連海洋法条約の実施過程においては、条約をベースにしながらも、航行の権利に対する合理的な規制の試みが徐々に強まっている傾向を明らかにした。後者に関しては、大陸棚制度に焦点を当てた研究を行い、大陸棚の定義と外縁画定の課題については、大陸棚限界委員会の活動が、実際には国家間の海洋境界画定紛争など、国連海洋法条約上は全く予見していない問題に関して、影響を及ぼす可能性と危険性のあることを明らかにした。 第二は、海洋法思想の新展開とも評し得る新たな動き、具体的には、海洋保護区(Marine Protected Areas, MPA)をめぐる動きをフォローし、MPAの国際法上の位置づけを試みることであった。MPAは、国際海洋法と国際環境法の両分野に関係をもつ、国際法思想の新しい潮流である。MPAの主張の背後には、海洋の生物多様性の保護という課題がある。注視すべきは、21世紀に入り、公海上にもMPAを設定すべきだという主張が強められていることである。かかる主張は、公海自由の原則と正面から抵触するものであり、MPAをめぐる動き如何によって、海洋秩序の抜本的な再編が促進される可能性もある。本研究では、MPAに関係する一般多数国間条約、地域条約、主要国の実行を整理すると共に、公海MPAの主張が生まれてくる経緯とかかる主張の法的問題点を検討し、MPAが現在の海洋秩序に及ぼす影響を分析した。
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