本年度は比較法的な視点から優越的地位の濫用規制を検討した。優越的地位の濫用に関して従来は、EC競争法の市場支配的地位の濫用規制、その中でも特に搾取的濫用濫用規制が類似する制度として注目されてきた。しかし、搾取的濫用の規制は実のところ妨害的濫用規制と連続する面があり、特に競争政策として独占的な地位の規制を行う場合、例えば接続料金規制に典型的に現れるように、搾取的濫用の側面を無視して妨害的濫用の要件を検討することはできないことを明らかにした。これは、今日の独占規制の焦点でもある。両者の融合の観点から、米国の反トラスト法における独占規制の歴史を再確認した。優越的地位の濫用が競争政策の一環として規制されるのは相手方の取引の自由が制約されないようにすることが自由競争の基盤として重要であるからだが、この点からすると取引の自由が重要な法目的として展開されてきたと解されている米国の反トラスト法の初期の歩みの理解が重要な意味を持つ。今年度の研究では米国の反トラスト法の初期の段階で取引制限の意義がコモンローの内容から乖離したことを明らかにした。すなわち、主観的な取引の自由の制限から客観的な取引量の制約へとその意義が変貌し、それは前者を重視すぎることが競争政策としては桎梏となったからであることを明らかにした。このような視点からは、優越的地位の濫用型の規制は意味を持たないはずだが、ある種の行動の自由は自発的な合意であっても制約できない自由として存在し、契約の自由を限界づけるという発想が、20世紀後半に至るまで、コモンローよりも射程を広げた形で存在したことも明らかにした。
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