研究概要 |
就労形態の多様化が進むなか,労働者と非労働者の境界線上にあるとみられる就業者が増加し,そのようなグレーゾーンの者が労働者に該当するかどうかをめぐり問題が生じている。現在の労働保護法上は,労働者に該当するかどうかは,労基法9条の労働者の定義に合致するかどうかにより決まるが,その定義は包括的なものであり,具体的にどのような判断基準により労働者性の判断を行うべきかはっきりしていない。ここに法的安定性・予測可能性の欠如という問題が起きている。他方,労働法上の保護は労働者に限定されているので,非労働者とされれば原則として一切の保護が及ばない。このようなオール・オア・ナッシングの処理は,要保護性があるにもかかわらず,労働者性が否定された者に過酷な結果をもたらすおそれがある。重要なことは,要保護性に応じた保護を与えることであり,そのためには,これまで学説・判例で用いられてきた「人的従属性」という基準を見直すことが必要である。比較法的な検討でも,日本と法制度が近い欧州大陸法系諸国では,人的従属性を中心とした労働者概念が採用されているが,経済的従属性のある就業者には,何らかの形で保護を及ぼそうとする傾向がみとめられる。他方,労働者概念の不明確性という問題は,どの国でも解決に困っている問題であるが,いくつかの国で採用されているアイデアを参考に,事前の手続的規制を用いて解決すべきである。一定の労働条件についての保護規制は,原則として,個人で労務を提供している人すべてに及ぶこととしたうえで,労働組合や行政機関の関与の下で保護規制の適用除外の同意を就業者がすれば,その適用除外を認めるというような法制が望ましい。
|