現在の経済・金融社会において頻発する、金融・証券犯罪事象に対して、どのような制裁が有効であるかを、特に罰金刑等の財産刑を中心として、検討することを目的とする本研究の初年度にあたる平成15年度は、以下のような作業を行った。 1.制裁についての理論的検討、すなわち、刑事罰だけでなく、民事的・行政的制裁・処分の原理についての検討を行い、それぞれの制裁の異同及び関係を考察した。刑事法における分野において従来手薄であった、民事法学者、行政法学者による論稿の分析に可能な限り意を用いた。経済的利益にかかるという意味で、金融・証券犯罪事象と緊密な関係をもつ罰金刑は、純理論的には別として、必ずしも民事上、行政上の金銭的制裁との相違は明確でない面がある。また、近年多用されている法人に対する高額な罰金刑は、その資産状況に見合った有効・適切な抑止力の惹起だけで説明することが可能かについて疑問が残るところとなった。 2.本研究において検討の対象となりうる金融・証券犯罪事例を収集、分析し、それを基礎として各刑罰法規の機能如何の検討を行うとともに、民事的・行政的手段がとられるにとどまった事例との比較を行った。刑罰や行政的手段が用いられた例をみると、現実に財産的被害を受けた者の数・被害の額の多寡、当該事象に対する社会的関心の程度が、その点に影響を与えていることが窺われる。個別の刑罰法規については、解釈により、その適用が相当に拡大されているものもあり、本来有するのとは異なる機能を果たしていると考えられるものもある。また、行政的手段も被害拡大後事後的に用いられることも少なくないこと等から、各制裁の本質に立ち帰った議論が必要とされていることが明らかとなった。
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