本研究は、近年のわが国における刑事関係の国際条約とその国内担保刑事立法の関係を、具体的なケースごとに.検討・分析するものである。 国連麻薬新条約の国内担保法であるいわゆる麻薬特例法は、マネーロンダリングの処罰や犯罪収益の広汎な没収・追徴等を定めている。この手法を、薬物犯罪以外の重要犯罪にまで拡大したのが、国際組織犯罪防止条約とその担保法である組織的犯罪処罰法である。またこの条約の議定書に対応するため、刑法第33章(略取、誘拐及び人身売買の罪)等の改正がなされた。 外国公務員に対する贈賄の処罰については、OECD外国公務員贈賄防止条約がある。この国内担保法は、不正競争防止法を改正して実現した(現18条)。また、テロ資金防止条約の担保法として、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」が成立している。 サイバー犯罪については、ヨーロッパ評議会によるサイバー犯罪条約があり、その国内担保法として、刑法改正案が国会に提出されている。 国連腐敗防止条約においてとりわけ注目すべきことは、A国の公務員が公的資金の横領やその資金洗浄で得た利益がB国に存在する場合、B国はその没収した財産をA国に返還する「財産の回復」規定を設けていることである。わが国では、この担保法ではないが、組織的犯罪処罰法における「犯罪被害財産」を一定の場合に没収・追徴し、これを犯罪の被害者に対して被害回復給付金として給付する法案(組織的犯罪処罰法の改正案と被害回復給付金支給法案)が国会に提出されており、この手法は、外国からの譲与財産についても同様に適用されることになっている。
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