本論文は、世界的な潮流となりつつある犯罪統制の私事化・民営化(商業化)の場面として、(1)刑務所・保護観察の民営化、(2)警備活動の私事化・民営化、(3)街頭統制の私事化、(4)私刑罰の執行を選び、主としてイギリス(連合王国)の実地調査を踏まえ、考察したものである。(1)については、すでにイギリスでは1992年に最初の民営(業務委託)刑務所が開業して以来、現在まで15ケ所の施設がPFI方式などで民間会社に委託され、その収容者数は全体の約10%程度に達している。さらに、保護観察についてもまず電子監視事業につき民間会社が参入し、さらには近い将来、保護観察業務自体への参入も予定されている。(2)においても、1980年代犯罪激増現象から、私的警備が一段と個人生活にも浸透し、現在では民間警備員数は公営警察職員(警察官)数を上回る状況がみられる。(3)では、CCTVの設置が公私の領域で進み、イギリスは世界でも有数の導入実績で知られる。しかしながら、CCTV設置を巡ってはプライバシー侵害問題のほかに、各種の調査で犯罪予防効果がみられないことが明らかにされている。(4)は、基本的に北アイルランドにおける準軍事組織の私刑罰を論じるもので、1998年ベルファスト(聖金曜日)合意によって、刑事司法改革が進むものの、依然として、銃撃、殴打、追放といったリンチが犯罪者、非行少年に加えられている。このように、イギリスでは私事化・民営化が進展しているが、これが意味するのは、公刑罰、公的機関の活動、さらにいえば国家機能の衰退、あるいは市民のこれらに対する不信感の表明といえ、他方、国家、公的機関の財政削減、管理主義といって近年の傾向を示すものであろう。しかしながら、これら私事化・民営化は責任の所在など明瞭でない部分も多く、今後は公私の連携等の見直しが必要であろう。
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