本研究は、債権の流動化が強く叫ばれている昨今、そのような要請と矛盾するかのような譲渡禁止特約について根本的な再検討を行い、同特約の機能と合理性、またその機能にふさわしい効力論を探ることを目的としている。そして、今年度は、実施計画で予告していたように、(1)日本における譲渡禁止特約に関する学説史について、(2)466条2項と重大な関連がある468条2項について、(3)468条2項に相当する抗弁接続条項に関する比較法的状況について、(4)本研究の最終目標である「物権と債権のシステム比較」について、各々考察を深めた。しかし、より特筆すべきは、「有償契約から発生する債権と無償契約から発生する債権とでは、譲渡禁止特約のあり方や効力が異なるのではないか」との前年度に得た知見をさらに発展させ、「同じ有償契約から発生する債権でも、企業間取引から発生する債権と消費者取引から生じる債権とでは、やはり同特約のあり方が異なるのではないか」との着想の下、企業間取引と消費者取引との相違点を確認すべく、瑕疵担保責任に関する古典的問題に取り組み、池田清治・不特定物と瑕疵担保-特に目的物「受領」の法的意味づけについて-(民事研修556号3-14頁、2004年)という成果を上げた点である。本論稿は、譲渡禁止特約論に直接ふれるものではないが、ドイツ法の近時の動向やアメリカ法、そして、フランス法にも目配りをしつつ、この問題について従来ほとんど意識されることのなかった「責問義務」の観点から問題にアプローチし、その点での企業間取引と消費者取引との相違を描き出したうえ、解釈論の方向性を示したものである。従前ほとんど指摘されることのなかったこのような視点を提示しえたことは、分析視角が近似していることからしても、今後、本研究を進めるうえでも重要な一歩をなすものである。
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