フランス法の生命倫理を中心に、資料収集と研究を行った。日本民法の母法であるフランス法は、生命倫理領域について、1994年の生命倫理法立法をはじめ、先進的な立法規制を成立させてきた。それらは卵子バンクや精子バンクなどが存在するような生殖子の市場化が行われているアメリカとは、まったく異なった法規制となっている。生命や身体に関する基礎的な概念についての蓄積も多いフランス法は、我が国の今後の生命倫理領域の法規制に大きな意義を持つ。わが国の生命倫理においては、アングロ・サクソン法理の中で育まれてきた自己決定権の主張が、それ以外の法理との整合性を問われることなく、いわば場当たり的に主張されてきたが、自己決定という概念は、ときにはあいまいであり、また危険ですらある。これに対してフランス法における法規制は、自由や自己決定を尊重してそれと調和をはかる規制を作り上げることは当然のことではあるが、それを絶対視するものではなく、また法が従来成し遂げてきた諸利益・諸価値の調和を前提として、これまでの法を参照し、法体系に整合的に、新たな規制を考える姿勢である。そして人間の諸利益調整の基本法として、民法は、絶えず参照され、議論と規制の基礎となる。1994年法の基本的理念は、民法の改正として、法体系に組み込まれた。人体の尊厳と不可侵性を格調高くうたいあげたフランス民法16条以下の原則的な規定が民法の位置づけを象徴する。このような民法の位置づけとフランス法の生命倫理に関する総論的な論文「人工生殖における民法と子どもの権利」を公表した。
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