生命倫理領域における自己決定の概念について、理念的な、また実践的な法理を明らかにすることを研究目的とした。生命・身体について、医療技術が高度に進展するとともに、その医療技術を受ける法的手続きが問題になる。まず自己決定が働きうる領域の確定である。生命を工業化された道具にしないという倫理的観点から、また他者(社会、家族、生まれてくる子)との関係からも、自己決定の領域は限定されざるを得ないが、その限界はどこに求められるかを検討しなければならない。方法としてはこれらの問題について、フランス法の議論と実践の現状を探ることによって、日本法の解釈・立法の方針を探ることとした。生殖補助医療の問題については、充実した成果をあげることができたと自負している。この研究の成果として、民法の位置づけとフランス法の生命倫理に関する総論的な論文「人工生殖における民法と子どもの権利」(湯沢他編『人の法と医の倫理』所収)をはじめいくつかの論文を公表し、またそれを具体化した仕事としても、日本法の喫緊の課題に従事した。たとえば具体的な事例として訴訟になった凍結精子による死後認知請求事件について、評釈を公表し、公表後の同種の事件の判決、たとえば東京地裁2005年9月26日判決などに影響がみられる。生殖補助医療領域については、当初の目的を十分に果たしたと思われるが、時事的な問題に追われたこともあり、当初は、意思決定能力を欠いた者がどのように自己決定できるのかという問題も射程に含めていたが、意思決定の代行問題については、研究は進めたものの活字にするにはいたらなかった。
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