本研究は、一般的な契約法理として契約プロセスにおける「交渉力濫用」を規制する民事法上の法理の可能性をさぐることにある。本年度は、次の2つの作業を予定していた。 【1】交渉力濫用に対する民事規制と行政規制の同質性と異質性の検討 【2】交渉力濫用規制の理念的基盤となる契約法パラダイムの検討 これらのうち、【1】については作業は遅れ気味であり、3月に脱稿予定であった原稿ももうしばらくかかりそうである。次年度の早期に遅れを取り戻したい。【2】についてはprivate orderingと交渉力濫用規制の緊張関係について、次のような研究を行った。 (1)司法制度改革推進本部ADR検討会における、いわゆる「ADR基本法」の検討に関連して、ADR係属中の時効完成を阻止するための法制度のありかたについて検討を行った。その成果はパブリックコメントという形で司法制度改革推進本部に提出したが、いずれ論文の形でも公表したい。 (2)法制史学会ミニシンポジウム「中国法制史における『史料』と『現実』」(名城大学、2003年10月4日)にコメンテーターとして参加し、private orderingの観点から、中国における裁判終結後の紛争の蒸し返しの許容や香港新界における『族産』の形成過程における交渉力濫用的契機についてコメントをした。この成果は活字化する予定である。 (3)CDAMSワークショップ「マクニールの関係的契約論とその展開」(神戸大学、2004年2月16-17日)にコメンテーターとして参加し、アメリカ統一商事法典(UCC)第2編にみられる契約プロセス配慮について、その再評価が必要であることを論じた。
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