1 研究計画で示した第一の課題である「1934年連邦証券取引法13条(b)(2)に関するSECの審決の検討から、SECによる法執行の変遷とその意義についての分析」を行った結果、1977年の同条制定当初は、不正な財務報告が契機となって、企業内の内部会計統制の未整備を追及していく方向性があったが、その後、80年代後半には、帳簿上の虚偽記載と内部統制の不備をわけて検討する例もみられるようになり、さらに90年代前半以降には、内部統制の有効性に関する経営者評価の要求や、監査委員会の同意なしに内部監査人を解任できないとすること、監査委員会に少なくとも1名の財務専門家を要求すること、経営者による内部統制の有効性評価を監査人がレビューすることなど、実は2002年米国企業改革法を先取りした内容を付随的救済に盛り込む法執行や、会計プロフェッションが主導して公表したCOSO報告書の内部統制概念の「統制環境」の整備を先取りした法運用の集積があったとみることができる。 2 第二の課題である、2002年企業改革法に登場した「開示統制・手続」と従来の「内部統制概念」の関係について検討した結果、これまでSECは、34年法13条(b)(2)を根拠に「財務報告のための内部会計統制」を義務付け、それを支えるガバナンスを法執行の運用により求めてきたが、企業改革法は、さらに404条により経営者に「財務報告に係る内部統制」の有効性を評価させ、その開示の客観性を担保する監査人による証明を要求し、それを背後から支えるため、より広範でかつ迅速な情報収集・分析・開示を可能とする302条の「開示統制・手続」を法制化したといえる。即ちGAAPに従った財務諸表を作成すれば足りると考えられがちな「内部統制概念」とは切り離し、適時開示に供される重要情報のうち、非財務情報も網羅するべく「開示統制・手続」の構築義務が課せられたといえる。
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