平成17年5月に日本評論社から出版した「内部統制の法的研究」では、2002年企業改革法に結実するまでの米国における内部統制の歴史的展開を、コーポレート・ガバナンスと証券市場規制の「公正な情報開示」の要請とを接続する概念という視点から考察し、最後に、わが国の内部統制構築に向けた法的指針作りに関する提言を行った。全体の構成としては、第一に、米国の内部統制概念は、法と会計・監査の領域において、相互に影響しあいながら明確化されたが、その過程を1970年代から90年代までの監査基準書等の展開を踏まえつつ、海外不正支払防止法による初の内部統制規定を根拠とするSECの法執行事例の分析を通して考察した。第二に1990年代後半以降、外部監査人、監査委員会、内部監査人の機能が、連邦証券取引所法および自主規制機関規則の改正によって強化され、これにより内部統制システムが法的に明確化される過程を示した。第三に、2002年米国企業改革法404条「財務報告に係る内部統制」および302条「開示統制・手続」の導入による、新たな内部統制システムの規制を証券市場規制の視点から考察した。第四に、企業改革法の内部統制規定との比較から、我が国の内部統制構築に対する今後の法的規制の枠組みについて提言を試みた。 次に、跡見学園女子大学マネジメント学部紀要4号に掲載予定(平成18年4月刊行予定)の論文「適時開示体制の整備と内部統制」においては、平成17年7月に、東証の「宣誓書及び上場会社の適時開示体制に関する研究会」により報告された「適時開示体制の整備の手引きと宣誓書の記載上の留意点」の内容を概説し、これまでの内部統制を越えて、証券市場における情報開示の適時性の要請を強調した内部統制システムの構築のあり方を企業改革法302条に規定された「開示・統制手続き」との比較を行うことで、我が国における上場企業の適時開示体制の現状とその問題点の検討を行った。
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