本研究の成果物として刊行した「内部統制の法的研究」(日本評論社2005年)では、2002年企業改革法(SOX法)に至るまでの米国における内部統制概念の歴史的展開において、コーポレート・ガバナンスと証券市場規制における「公正な情報開示」の要請とを接続する機能を果たす概念という視点から、公開株式会社の内部統制システムを法的に考察し、現在、我が国が直面している内部統制システム構築の課題に向けた示唆を提示した。 申請時の課題として掲げた第一の目的は、SOX法の新しい内部統制概念である「開示統制・手続」につき、従来の概念との異同を明らかにすることであった。この点、従来の概念を踏襲するSOX法404条の「財務報告に係る内部統制」を支える新たな「開示統制・手続」は、SOX法302条のSEC規則に基づき、財務情報のみならず非財務も含む企業情報の収集・分析・判断・開示を迅速に行う手続として、GAAP基準に依拠しない内部統制であることを本書の第三篇において示した。 第二の目的である監査委員会と内部監査部門との関係の検討については、外部監査人・内部監査人の独立性確保、および内部監査人から監査委員会に対する情報提供ルートの確立が、監査委員会のレビューの有効性を確保するうえで不可欠な要素であり、内部監査部門の機能の充実は、内部監査人協会(IIA)の内部監査の実施基準の変化からも読み取れることを本書の第二編・第三章において指摘した。 第三の目的は、内部監査人と外部監査人との連携関係、および内部統制を巡る取締役会と監査委員会の役割分担等の関係を明らかにすることであったが、監査人が内部統制の欠陥を発見した場合の報告義務を定めた34年法10A条を超えて、SOX法・NYSE規則等は、経営者、内部監査人、従業員、弁護士が内部統制の不備等を発見した場合、監査委員会に対して報告する義務を課し、その多様な情報により監査委員会は内部統制のプロセス監査を行い、それに基づき取締役会が最終的な監督権限を行うメカニズムを第三篇において示した。
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