伝統的な民法学では、契約を、複数の当事者による意思の合致であると考えてきた。そして、契約が当事者を拘束するのは、契約が自らの自由意思に基づくものであると説明し、私的自治の原則を強調してきた。このような契約に対する理解は、今日においても適切である。しかし、近年は、当事者の一方に情報提供義務が認められ、合意ではなく、信義則によって義務が認められてきている。ところで、この情報提供義務は、事業者と消費者との情報量及び情報の収集能力の格差があり、私的自治を回復するために認められるものである。そして、フランス私法では、近年、伝統的な商人と非商人との区別に代えて、このような事業者と消費者という区別が重要な枠組みとなってきている。例えば、担保の領域では、保証契約について、事業者によってなされた場合とそうではない個人によってなされた場合とで、その法制を異にしていた。そして、契約法の領域では、瑕疵担保責任と債務不履行責任に関しては大きな動きが見られる。すなわち、1999年5月25日の売主の担保責任に関するEC指令は、フランスでは、2005年2月17日のオルドナンスによって、ようやくその消費法典(L.211-1条以下)への転換が実現した。この規定によれば、消費者である買主は、事業者である売主に対して、引き渡された物の不適合を理由に担保責任を追及することができる。ところで、民法典では、引渡債務の不履行に基づく解除訴権(1184条)・損害賠償訴権(1147条)および瑕疵担保責任に基づく訴権(1641条以下)の2つを有している。そこで、買主である消費者は、この3つの訴権を用いることができるため、消費者にとっては手厚い保護となっている。このように、消費者の保護は、私法全体の枠組みを変更させる契機を含んでいるといえよう。
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