本年度においては、国際競争の激化、高齢化社会の進展等の社会・経済の変化に対応して、企業におけるデザイン創作活動がどのように変化しているのか、そして、変化するデザイン創作活動の成果が現行のデザイン保護法制において的確に保護されているのかについての情報収集を行った。また、欧州、アメリカ、韓国等の諸外国のデザイン保護法制の比較法的研究を行った。とりわけ、国境を超える意匠保護制度を創設したEUの法制を詳しく検討した。 企業は、国際競争を勝ち抜くために、デザイン創作をブランド構築の一環として捉える傾向を強めていることを確認した。そして、ブランド構築のためにデザインを活用するために、登録意匠権の保護範囲を拡大する要請が強いこと、現行法上は部分意匠制度への期待が強いことを認識した。部分意匠の保護にとって重要な、意匠法26条が規定する意匠の「利用」については、同法23条が規定する意匠の「類似」との関係が明確でないという問題がある。そこで、「利用」概念を論じた最近の裁判例である東京高判平成15年6月30日を詳しく検討し、さらに、この検討を基礎として「類似」と整合性のとれた「利用」の解釈論を展開した。この「利用」の研究から、「類似」の問題点、とりわけ物品の類似が必要であるか否か、が浮き彫りになった。 また、EUの法制の研究から、それが市場との関連の中でデザイン保護制度を構築していることを確認した。市場との関連という観点からは、特に意匠の保護範囲と市場に投入することにより発生する保護である非登録共同体意匠が重要であり、本年度は、後者を、登録共同体意匠との比較において検討した。
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