本研究は、今日「共同体」の名の下に論じられる価値・ニーズを分類・整理し、自由民主主義との関係において、評価を加えるための枠組みの構築を目的としている。一年目の本年度は、今日、「共同体」をめぐっておこなわれる重要な論争に関して文献・資料を収集・整理するとともに、その内容を概観・整理することにつとめた。具体的には少数派社会への帰属の尊重をめぐる議論((1)少数民族社会の保全、(2)少数派文化・集団の処遇など)、自治・政治参加の活性化をめぐる議論((1)参加民主主義、(2)審議民主主義、(3)市民社会論)、市場の論理の抑制の主張((1)経済格差の緩和、(2)居住・職業の安定性など)、国家・政治共同体への情緒的愛着をめぐる議論((1)ナショナリズム、(2)パトリオティズム)について、価値・ニーズを特定し、相互に区別・分類することに力点を置いた。その過程で、次のような知見を得た。第一に、これらの価値・ニーズを具体的な共同体の形態と結びつける場合、これらの議論相互間には、多くの交差・錯綜が見られる。とりわけ、少数派社会の保全、自治・政治参加の活性化、市場の論理の抑制をめぐる議論が、同一のタイプの集団・共同体を念頭に行われることが多い。したがって、これらの議論の相互関係を解明するために、具体的共同体を念頭においた、種々のタイプのケース・スタディを参照し、これらの論争の背景・実践的含意をより詳細に解明する必要が認識された。第二に、これらの議論において、19世紀・20世紀初頭のみならず、20世紀中葉の議論がしばしば参照されるのであり、この時期の議論を比較対照に選ぶ必要が認識された。来年度はこれらの点に重点をおいて研究をすすめる予定である。
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