1.中世:14世紀前半の帝国政治の主役の一人だったトリーア大司教バルドゥインの行動と構想を考察し、この時期の帝国の特質を解明するよう努めた。バルドゥインは、教会法学の素養と聖界君主としての立場を背景に、帝国を教会との類比で捉える一方で、ライン地方で他の大司教たちと同盟を結んできた経験を基礎に、選挙侯同盟を結成し、教会と異なる帝国の法と慣習を宣言した。ただし、教会組織の一員でもあるバルドゥインの立場は教皇権に対し弱体で、帝国と教会との切り離せない関係はその後も影響を及ぼし続けた。 2.近世:ブランデンブルク選帝侯、ザクセン選帝侯、ブラウンシュヴァイク大公、ヘッセン方伯という四つの北ドイツ諸侯領における17世紀後半の領邦郵便の具体的な発展の過程を、特に帝国郵便と皇帝との関係において調査することに研究の主眼を置いた。17世紀後半の重要な政治事項(対トルコ戦争援助金、ライン同盟、国王選挙、フランスの侵攻)と密接に関連しつつ、皇帝により領邦郵便が承認される過程、領邦郵便間に協力関係が築かれていく過程、またその協力関係が崩れる過程を具体的に把握できた。 3.近代:一八〇六年以後のライン同盟公法学に見られた主権概念をめぐる論争が、一八二〇年前後ドイツにおける主権概念の定式化を規定している点を明らかにし、6月の日本ヘーゲル学会シンポジウムで報告した。10月には、来日したヘーゲル・アルヒーフ所長イエシュケ教授の講演会で、代表質問者としてヘーゲルの精神概念をめぐり討論した。更に、本年2月のドイツ史研究会でシンポジウム「国家主権と帝国」を開いて、三名の研究成果を報告し、学外研究者三名のコメントを元に共同討論した(本年公表予定)。また二〇世紀における主権概念の対外的展開に関する、一橋大学COEプログラムとの共同研究の成果を公表した。
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