第1年度である平成15年度は、1920-30年代における世界各地の在外日本人コミュニティにおける「洋行インテリ」のデータベース作りを目指したが、その中心であるドイツ・ベルリン及び米国カリフォルニアについては、ほぼ予定通りに重要人物についてのデータ収集と履歴入力を終えることができた。特に初めて取り組んだ米国については、現地調査を行い、ワシントンの米国国立公文書館、米国議会図書館資料、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校図書館の資料によって、これまでにない詳細なデータベースを作成することができた。 その過程で、新たな重要な知見も得ることができた。ベルリン日本人左派グループと共に「革命的アジア人協会」を構成していたインド独立運動家ヴィレンドラナート・チャットパディアの研究から、彼の1920年代ベルリンでの配偶者である米国人ジャーナリスト・アグネス・スメドレー関係の資料を米国及び中国・上海での日本人コミュニティ・データベースと重ね合わせ、従来から知られていたニューヨークの作家石垣綾子・画家石垣栄太郎夫妻とのつながりのみならず、30年代初頭にベルリン・アメリカの双方を往き来した作家藤森成吉、労働法学者野村平爾と石垣夫妻、さらにはベルリンからモスクワにいったん亡命した演出家佐野碩が1937年ソ連を国外追放になりニューヨークの石垣夫妻に助けを求めること、このネットワークにおける、父がモスクワの片山潜の親友であり、自身はベルリンで国崎定洞・勝本清一郎・藤森成吉らと共に「革命的アジア人協会」組織化の中心となり、兄伊藤道郎がロスアンジェルスにいた演出家千田是也の役割が判明した。 今年度調査の大きな副産物は、やはりスメドレー人脈の調査から広がった上海を中心としたゾルゲ事件の国際ネットワークの調査から、野坂参三が毛沢東・蒋介石と交わした未発表手紙4通を発見し、新聞でも大きく取り上げられたことである。
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