本研究では、EUの東方拡大過程において、EU域と国境を接する加盟準備国の地方自治体が「統合準備の先駆的役割」を果たしていることを明らかにする。そのため、本年は、以下の点に重点をおいて研究の基礎的な文献収集とEU本部へのインタビュー調査を行った。 1)基礎的文献の収集とその分析 本研究の基礎的な分析枠組みとなる欧州マルチレベルガバナンスモデル(以下、MLGモデル)に関する文献収集を、東京にある大学の欧州資料センターなど中心に行い、それらの分析を行った。さらに、MLGモデルの先行研究となる欧州統合理論についても、他理論からのMLGモデルに対する批判を軸に、MLGモデルの欠点と、欧州統合の現実とのすりあわせを検証した。その結果、統合の動態的分析に関してのMLGモデルの欠点が明らかになった。 2)EU本部へのインタビュー調査 幸い、欧州委員会と欧州議会の招聘を受け、欧州連合短期招聘プログラムに参加することができた。本研究のテーマである国境沿いの地方自治体が担う「地域統合の実験的役割」が、バルカン半島と黒海沿岸でも適応されているかを検証するため、その窓口となる欧州統合拡大の責任者の一人であるアラン・サラバンティ氏をはじめ、地域政策ユニットのINTEEREG責任者らから、今後の欧州拡大と地方自治体の役割についてのインタビューを行うことができた。したがって、本年は、当初予定したバルカン半島調査を延期し、欧州委員会などの超国家組織側の意図を探ることに重点を置いた調査を挙行した。また、地方自治体のブリュッセル事務所を訪問する機会も得ることができ、越境広域ガバナンス形成への自治体の戦略について検討を始めるきっかけを掴むことができた。
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