1.本研究全体のうえで基礎段階にあたる平成15年度は、ベトナム戦争関係およびケネディ政権を中心としたアメリカ外交関係図書の購入を進めながら、全体の構想についていっそうの明確化を図った。とくに今後の研究上中核的な資料となるForeign Relations of the United States 1961-1963や各種マイクロ資料を利用して詳細な外交文書を検討した。1963年5月の仏教徒危機発生以前から対ゲリラ戦争の遂行をめぐってアメリカ=南ベトナム関係が険悪化していたこと、両国の見解の相違が短期的にはゴ・ジン・ジェム政権を転覆させ、長期的にはベトナム戦争の勝利を阻害する大きな要因となったことがより明らかになった。 2.国際政治学会(平成15年11月)の欧州国際政治分科会に討論者として参加し、ベトナムを含む東南アジアを中立化するというフランスの構想と、それに対するアメリカ側の対応をめぐる発表について、米仏関係および米=南ベトナム関係の視点からコメントを行った。その際、フランスが中立化構想を公にした1963年の段階で、すでにアメリカ側に中立化を受け入れる素地がなかったと思われること、その背景には冷戦思考と並んで急速に悪化する南ベトナムの政治情勢があったことなどを指摘した。 3.ベトナム戦史研究と現代アメリカ外交分析を並行して進めるよう心がけ、とくに「ベトナム症候群」と呼ばれるこの戦争の後遺症について検証を加えた。ベトナムでの敗北がアメリカ社会に甚大な影響を与えたのはそれが「正義」不在の戦争だったためであり、1963年、仏教徒の弾圧に始まる政治危機がいわば「正義なき戦争」の始まりであったことを再確認した。
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