前年度に引き続き、ベトナム戦争関係図書、およびケネディ政権を中心にアメリカ外交関係図書の購入を進めながら、その体系的な利用を図った。具体的には、ベトナム戦争史の重大な分岐点のひとつである1963年を中心に、ケネディ政権とゴ・ジン・ジェム政権との軋轢を軍事・政治・外交の3つの局面から分析することとし、今年度はとくに軍事的側面を考究の対象とした。その結果、ケネディ政権が発展途上世界対策の一環として推進した「反乱鎮圧戦略」に内包されたいくつかの矛盾が明らかになった。第一にもっぱら軍事的手段に依拠しながら政治戦争を遂行したこと、第二にアメリカが代理戦争の主役として期待した南ベトナム政府軍との間に、アメリカの介入拡大に起因する軋轢が強まったこと、第三に政治的側面の軽視、空軍力をはじめ火力・機動力・科学技術への過度の依存など、アメリカがベトナムに移植した戦争遂行のやり方に限界があったことである。本研究の推進にあたっては、基盤研究(A)(1)「アメリカの戦争と世界秩序形成に関する総合的研究」研究分担者としての活動が大きく貢献した。 なお、本研究の遂行にあたっては、当初の予定と大幅に異なる支出を行い、補助金をほぼ全額、研究資料の購入、すなわち物品費にあてた。それは、かねて予想した数をはるかに超える文献、それもきわめて重要なアメリカの外交文書集やベトナム戦争関連の研究書などが今年度入手可能となったこと、そうした資料を購入できなかった場合、来年度以降利用できる保証がないこと、したがって旅費(他大学でのマイクロ資料などの利用のため)や謝金(膨大な資料の整理など研究補助のため)などの支出を断念しても、今年度中に上記資料の確実な入手をめざすほうが研究上有益と判断されたことによる。
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