(1)4年間の研究の最終年度にあたり、最も中心的な課題であるアメリカと南ベトナムの政治的な軋轢について、その背景や展開、影響などの解明に取り組んだ。 (2)1963年5月に南ベトナムで勃発した仏教徒危機が11月のゴ・ジン・ジェム政権打倒につながるまでの過程について、危機の底流となった南ベトナム国民のジェム政権への不満の蓄積、仏教徒の政治運動に対するジェム政権の強圧的な対応、事態解決に向けたケネディ政権の圧力戦術の失敗などを実証的に分析した。 (3)とくにアメリカ側の対応に見られる問題点として、南ベトナム政府とまったく異なった事実認識や目標設定の上に立っていたこと、事態収拾や政治の民主化を求める圧力がジェム政権を一層硬化させたこと、ジェム政権の置かれた立場を理解しようとする努力がかえってアメリカの圧力に制約を加えたこと、結果的にクーデターによる政権転覆以外にとりうる手段がなく、しかもそれが南ベトナムの政治情勢を一層悪化させたこと、にもかかわらず失敗の原因については最後までジェム政権に帰し続け、反省にいたらなかったことなどを指摘した。 (4)政治面で見られる上記の問題点に加え、軍事・外交面でもケネディ政権のベトナム政策には類似の欠陥が見受けられ、またそれらはベトナム戦争期をつうじてアメリカが経験する挫折に直結する性質を持っていたことが明らかになった。したがって本研究は、ベトナム戦争史研究において、戦争激化の前段階であったケネディ政権期にこそ重大な意味があることをあらためて確認したものといえる。
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