本研究は、1990年代以降、アジアの諸社会において非営利セクター、あるいは市民社会といわれる非営利で公共を担う民間組織が急速に台頭しているという、広く流布した言説を批判的に検討することを目的としている。牧田は、カンボジアを事例に3度目となる現地調査を実施した。鈴木はフィリピン(2度目)とタイでのNGO訪問調査を実施した。雨森は日本のNPOに関する調査を継続した。NGO/NPOの発展と言われている現象が、内発的なものではなく、開発援助や国際交流を通じて、欧米からの資金や言説の影響を強く受けたものであることを確認すると同時に、こうした援助や言説が受け入れられる現地の側のニーズや欧米の介入や影響を再解釈し、独自のものとして再創造していく過程に着目した。2004年11月に東京で開催された国際開発学会全国大会で共同研究発表を行い、関係者から多くの貴重なコメントを得た。合宿を行って、執筆論文の最終調整を行った。その成果は英文の論文として、共同研究者3名、および研究協力者の長畑誠(インドネシアの事例研究)がそれぞれ執筆した。論文は、近い将来英文書籍として出版の希望をもっており、論文集として出版するためには、アジアの他の国についても事例研究が必要との判断から、追加的な執筆者を探し、中国のNGO・市民社会について中国社会科学院の羅紅光教授、韓国の事例について金敬黙氏に基本的な承諾を得た。全体を通じて、非営利セクター、市民社会の爆発的拡大という言説は、ある種のイデオロギーの流布であり、援助機関や先進国NGOによる自己拡張の戦略であることを明らかにすると同時に、それが受け入れられる諸事情がアジア各国に存在することと、受容の過程や変容の内容が、各国で様々に異なること、そこに再創造の過程が共通して見られることを明らかにすることとなる。
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