1.2003年9月、史料調査のため10日間デンマークに出張し、主としてデンマーク国立公文書館において、第二次大戦末期のソ連によるボーンホルム島占領問題、冷戦期のデンマーク・ソ連関係及び米国・デンマークによるグリーンランド防衛協定などに関する外務省関係の公文書類調査を実施した。冷戦期のデンマーク・ソ連関係、グリーンランド防衛協定関係の公文書の中には国防上の観点から依然機密指定の解除をされていないものや外務省の特別許可を要するものがあるなど閲覧手続きに想いの外時間を要したが、公文書館側の好意的な支援で一部文書を除きほぼ予定していた史料ファイルを調査することができ、必要文書約500頁を複写することができた。また、公文書館が閉館となる週末を利用し、バルト海入口に位置し、大戦末期ソ連が占領したボーンホルム島を訪れ、同島防衛博物館において当時の記録文書や写真パネルを見学、同博物館発行のソ連赤軍の侵攻・占領・撤退に関する貴重な戦争記録集を入手することができた。 2.今回調査で入手した公文書類の読解・分析を継続して行なってきているが、現段階での新たな知見としては、(1)ソ連赤軍によるボーンホルム島占領は同時期の北部ノルウェー侵攻・占領と類似点が多く、戦争末期の混乱による偶発的な出来事ではなく、ソ連によるポーランドなど東欧への勢力圏拡大と連動した政治的な動きであること、(2)ソ連によるノルウェー領スヴァールバル諸島の共同防衛要求は米軍駐留継続を求める米国・デンマーク間のグリーンランド防衛協定交渉の成り行き(おそらく米国・アイスランド間の基地貸与交渉とも)と関連性がある動きで、米ソ間で北極海をめぐっていわゆる勢力圏分割が行なわれてきたと解釈できるの二点を指摘しうる。より詳細は、本年6月12日の北ヨーロッパ学会で報告を行なう予定。
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