1.本研究の目的は北極圏が地域全体としてどう冷戦構造に組み込まれてきたのかを、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、ロシア、米国、英国の一次史料、いわばマルチアーカイバルなアプローチを用いて実証的に分析することにあった。本年度は4カ年計画の最終年であったが、前半の二年間は、1944年にソ連から提起された、北極海に位置するノルウェー領スヴァールバル諸島の共同軍事防衛問題を戦後の欧州秩序構想と絡めたソ連による北極圏の勢力圏分割という観点から再検討してきた。後半の二年間は、分析の視点を米国に置き、米国が戦後の欧州秩序構想において北極圏地域をどのように位置づけていたのかをグリーンランドやアイスランドにおける米軍基地網構築の動きから分析することに努めた。 2.本年度は昨年度に引き続いて、大戦末期から冷戦初期におけるアイスランド・米国関係を、米軍の長期基地貸与協定、二国間防衛協定を中心に調査・研究を行なった。史料調査に際してはアイスランド大学のインギムンダルソン教授(冷戦史、アイスランド・米国関係専門)の研究支援を得て、アイスランド側の一次史料(両協定に関わる政府間交渉の報告書、当時の政府要人の回想録等)を入手、右史料を米国務省の公刊外交文書(FRUS)と照らし合わせながら分析を進めた。この結果、北極圏における米軍基地確保の動きは、ルンデスタッド・オスロ大学教授が提唱し、冷戦史学界で大きな論議を呼び起こした「招かれた帝国」理論の実相とは大きく異なり、むしろ米政府は北極圏を自国の安全保障上不可欠な「勢力圏」と位置づけ、ソ連における東欧と同様、自ら「押しかけてきた」実態が明らかになった。 3.上記知見については、2007年2月に東海大学文明研究所主催の研究会において「冷戦と戦後体制」と題して報告を行なった。また、本研究全体の総括となる論文を北ヨーロッパ学会の学会誌『北ヨーロッパ研究』(2007年度)に投稿する予定である。
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