研究課題
基盤研究(C)
1.歴史事象としての冷戦が完結したことにより、現在、改めて冷戦史研究の現代的意義が問い直されている。それは「冷戦期の冷戦研究」から「冷戦後の冷戦史研究」への脱却とも言えるものであるが、そこで論議される新しい冷戦史研究は、これまでのヨーロッパを主舞台とした米ソ両陣営のパワーをめぐる対立構造の分析を中心にしたものから、旧ソ連・東側諸国の新史料を活用しつつ、冷戦とヨーロッパ周辺部あるいは第三世界の変容との関係や冷戦が政治・軍事分野にとどまらず経済・社会・文化全般に与えた影響をグローバルかつトータルな視点から捉えようするものに変容しつつある。2.本研究は、欧州冷戦史でも余り取上げられない欧州北辺の北極圏を取上げ、この地域が冷戦構造にどう組み込まれてきたのかをマルチアーカイバルなアプローチを用いて実証的に解明することを主目的としていた。具体的には北極海にあるノルウェー領スヴァールバル諸島、デンマーク領グリーンランド及びアイスランドを包含した北極圏地域を設定し、44年から47年にかけてのいわば冷戦の「萌芽期」に米ソの戦後秩序構想の中にどう位置付けられ、それが欧州中央との関係の中でどのような影響を及ぼし、あるいは受けてきたのかを調査・分析してきた。3.研究成果の概略を述べれば以下のとおりである。44年に入ると、米ソ両政府部内では近い将来のドイツ降伏を見据えた戦後構想の検討に取り掛かった。その中で、米国は第二次大戦当初よりナチスからの防衛を目的に軍事駐留していたグリーランドやアイスランドに対し、米本土の安全保障の観点から戦後も駐留の継続、長期基地貸与を強く要求するようになった。一方、ほぼ同時期にソ連は北部ノルウェーの解放・占領に続き、軍事戦略、補給航路の確保の必要からノルウェー領スヴァールバル諸島の共同統治を提案。しかし、デンマーク、ノルウェーは未だナチスの占領下にあり、アイスランド政府やノルウェー亡命政府(ロンドン)にとっては米ソの要求は余りに唐突で、45年中に極秘裏に進められた交渉は北欧側の反発・不安もあり難航した。一方、米ソ両国は相互に相手側の北極圏への動きを表面上は批判しながらも積極的な介入の意思は示さなかった。このことは欧州中央で展開されていた「勢力圏分割」が欧州北辺の北極海でも暗黙裡に展開されていたといえるのではないか。
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東海大学文明研究所『文明』 第10号(未定(脱稿済))
Civilization No.10
ページ: n.n
東海大学文明研究所『文明』 第6号
ページ: 81-92
Civilization No.6
東海大学文明研究所『文明』 第5号
ページ: 43-51
Civilization No.5
(ed.) Makoto Murai & Takayasu Okushima, Norwegian Sociaty], Waseda University Press
ページ: 65-83