平成15年度は、第1に、近代日本の赤十字標章受容に関する論文(日本語1本・英語1本)をそれぞれ発表した。このうち英語論文は『国際赤十字紀要』に発表することができた。英語論文は、さらに赤十字国際委員会によって同委会のウェブサイトでPDFファイル化され、また仏・イスパニア語などの翻訳版もあわせて作成・公表されたため、各方面から拙論への批評や感想などが徐々に寄せられつつある。今後研究を進めていく上で大いに参考にしたい。 第2に、赤十字・赤新月標章問題に関する基本文献の収集と先行研究の整理を行なった。とくに、前史(戦場において特定の紋章に意味をもたせるという慣習の起源)、赤十字標章の採択から露土戦争(標章複数化の起源)、未承認標章の具体例(とくに脱植民地後のアジア諸国の例)についての文献に関心を払った。 第3に、9月ジュネーブを訪問し、赤十字国際委員会のライブラリーおよびリサーチ・サービス、同博物館において、アーキビストや専門家の方々より指導と助言を受けながら、資料の収集、参考文献リストの作成を進めた。当初はアンリ・デュナン研究所での調査も予定していたが、本研究課題に関する文献や資料の所管はライブラリーにあることがわかり、研究所のほうは訪問しなかった。また、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部において、赤十字国際委員会および赤十字・赤新月標章問題についてブリーフィングを受けた。 第4に、日本赤十字社(国際部)からは多くの情報や助言、協力を得た。また、上記ジュネーブ訪問に際しても便宜を得た。日赤は、「赤十字情報プラザ」という資料センターを開設、文献や資料等の利用が容易になった。また、日赤山梨県支部からも情報や資料を得た。 第5に、7月にロンドン・スクール・オブ・ポリティクス・アンド・エコノミクス(LSE)において、本研究課題を含めて、近代日本の赤十字についてのセミナー講演を行なった。
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