平成17年度は、第1に、昨年度に引き続き、「未承認(unrecognized ; conjectural)標章問題」の背景にある<植民地支配後>の状況、植民地時代の赤十字組織・活動、標章問題解決(あるいは未解決)のプロセスについて、とくに英国植民地支配下にあった赤十字組織のなかでインドの事例に注目し考察を深めた。またイスラエルと保護標章の問題について資料・文献の収集を引き続き行なった。本課題については、3月に英国赤十字社等において資料収集と情報交換を行なう計画であったが、諸般の事情で渡航を取りやめざるを得なかったため新年度に調査を行なう予定である。第2に、日本赤十字社の創設期から昭和戦前期の資料の調査を通して韓国や満州の赤十字社についてアプローチを試みた。本件については、引き続き新年度も、日本赤十字学園よりあらたに研究助成を得て国内共同研究として進めていく予定である。第3に、7月にシドニーで開催された国際歴史学会総会に参加し、とくに植民地主義や人種主義の問題にいかに取り組みうるかについて、セッション参加や海外研究者との意見交換を通し問題意識を深めた。第4に、12月にジュネーブで開催された外交会議において採択された「第三標章(the red crystal)」についての情報・資料収集を行い採択の経緯を明らかにした。第5に、シンボル・記号としての保護標章の意味について基礎的考察を深めた。第6に、昨年度に引き続き、本研究課題を植民地後和解の問題としてアプローチしうるかについて検討した。これについては、研究代表者が平成12年度〜14年度まで科学研究費補助金(基盤研究(c)(2))を受けて遂行した戦後和解に関する研究とも関連させ、植民地支配後の和解の困難さを含めて和解の問題にアプローチを試みた書籍を刊行した。この業績をふまえて、保護標章問題を植民地支配後の和解という視点から考察した論文を現在作成中である。第7に、『戦争とヒューマニティー』を編集し公刊した。
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