この研究は、キューバ・ミサイル危機後、1968年までの米・キューバ関係を考察することで、冷戦構造が大きな矛盾を抱えながら暫時的な調整を経験し、それが恒久化し、ポスト冷戦の現代にまで継続していることを指摘しようとするものである。それは、ナショナルな諸制度とグローバルな制度との輻輳という形で端的に表れる。さらにいえば、現代のグローバリゼーションはそうした「矛盾の恒久化」というアイロニーを浮き彫りにする機能を果たしている。 以上の大きなテーゼの論証のために、一時資料を分析した実証研究と、国際関係の理論研究との2つ側面から作業を進めている。前者については、ジョンソン大統領米政権のLatin America : LBJ National Security Filesなどのマイクロフィルムの分析を行った。キューバ政府側の資料は、Granma internacional、Foro internacionalなどの掲載資料を分析した。ヨーロッパ正面での冷戦のデタントへの移行が大きな慣性力を持つなかで、キューバの社会主義建設が「西半球における異常事態」として米ソ両国に認識されながらも、行き詰まりを突破する方策がいずれの側からも見いだせず、そのまま放置された構図が明らかになってきた。周辺資本主義的蓄積の様式、民主主義システムの複合体の結束水準としての国家、国家間暴力と国家内暴力の分業といった諸側面に、それらを論じることができる。 こうした作業の部分的な予備的考察を、「拡散する暴力、転移する権力」という論文にまとめ、冷戦後の暴力のあり方の変化にまでつなげて論じた。また、これを昨今流行のグローバル・ガバナンスという概念から、帝国論に即して、英語論文にサーベイとしてまとめた。これらの応用編として、ポストナショナルな世界配置がすでに冷戦半ばから予行的に実行されていたという推測を踏まえ、現代の国際政治状況に絡めて論じる論文も書いた。このほか、ナショナルな水準にとらわれない民主主義の可能性と危険性、新たな地域主義の機能についての論文も、以上に関係する作業として発表した。
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