研究概要 |
鈴村(2002,『経済研究』)によれば、世代間衡平性の問題を分析した研究の流れは二つある。一つは、イギリス・ケンブリッジの伝統(倫理学者シジウィックの影響の下に経済学者アーサー・ピグー、数学者フランク・ラムゼーが展開した功利主義的な規範的経済学)であり、もう一つは、アメリカ・ケンブリッジの伝統(哲学者ジョン・ロールズの『正義の理論』を異時点間の資源配分問題に適用した経済学者ケネス・アローおよびロバート・ソローの研究)である。イギリス・ケンブリッジの伝統では効用の割引を世代間の衡平性の観点から否定するのに対し、チャリング・クープマンスとピーター・ダイヤモンドが創始した効用の無限流列の評価についての公理的研究は、効用流列の評価法が満たすべき要請と世代間の衡平性の要求が両立しないという不可能性定理を確立した。鈴村=篠塚(2004,『経済研究』)において,我々は,1960年代以降の研究の主要な成果を展望して,研究の現状の評価を行ない,この分野において一層の研究が期待される問題のいくつかを指摘した。とりわけ、シジウィック=ピグー流の手続き的衡平性の公理に代えて、帰結主義的衡平性の公理を使った鈴村=篠塚の新しい研究成果の一部を紹介した。この鈴村氏との共同研究の成果は、別の機会に本格的に取り纏める予定である。 一方、イギリス・ケンブリッジの伝統を継承する公理的研究が、ウォルター・ボッサールの研究グループにより行なわれているのであるが、彼等の主用業績が,最近公刊された(Handbook of Social Choice and Welfare, vol.1Ch 11 : Utilitarianism and the Theory of Justice, by Charles Blackorby, WalterBossert and David Donaldson)。現在、鈴村氏を中心として、社会的選択理論の第一線の日本人研究者たちのよる、このHandbookの翻訳出版計画が進行中である。篠塚は、世代間衡平牲問題に最も関係の深い第11章を担当し、現在、翻訳に当たっている。翻訳は2004年11月に丸善出版から刊行される予定である。 世代間衡平性問題の情報的基礎を考察するための足ががりとして、ゲーム理論における情報および知識の取り扱いを学ぶため、科研費によって、大阪大学杜会経済研究所講師の高宮浩司氏を小樽商科大学主催の経済研究会に招き、共有知識の理論を使うアプローチについて研究報告してもらった。地球温暖化問題のゲーム理論的分析について学ぶため、早稲田大学政治経済学部教授の船木由喜彦氏を小樽商科大学主催の経済研究会に招き、共有資源問題について研究報告してもらった。
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