平成16年度科学研究費補助金により、上記研究課題について、以下の研究成果が得られた。 1."An Axiomatic Approach to Epsilon-contamination"がEconomic Theoryに正式に掲載予定となった。これは、統計学の分野では長年研究が進められ、近年、経済学に応用されるようになった、ε-contaminationと呼ばれるモデルに意思決定者の行動の背後にある合理的な根拠を与え、公理化した論文である。 2.京都大学の西村和雄教授、東京大学の福田慎一教授の編纂による、『非線形動学-不決定性と複雑性』の11章、「ナイト流不確実性と均衡価格の不決定性」を担当、16年9月に東京大学出版会から出版した。ここでは、非期待効用理論における経済動学モデルを解説、従来の期待効用理論のモデルでは一意に決定される資産価格が、ナイト流不確実性の下では一意には定まらない、つまり、資産価格の不決定性について詳細に述べ、非期待効用理論の応用可能性に関する議論も同時に行った。 3.16年度は大阪大学社会経済研究所の浅野貴央特任研究員と以下のような研究を行った。従来の時間に関して加法的な期待効用理論ではモデルの制約上、説明できなかった意思決定者の性向を分析できる理論が再帰的期待効用理論であるが、この理論をマクロ経済学で重要な研究テーマの一つである職探し(job search)理論に応用した。従来の期待効用理論では説明できなかった、不確実性の現出するタイミングに対する人々の選好が職探しを停止する最適な時刻(optimal stopping time)に与える効果を明らかにした。
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