各事象に確率が主観的に与えられており、ある行動から得られる利得を期待効用で評価するモデルを主観的期待効用理論と呼ぶ。一方、不確実性の程度が大きく、主観的な確率ではなく、主観的な確率の集合が与えられている場合をナイト流不確実性と呼ぶ。この場合、期待効用がもっとも低くなるような確率で行動の期待効用を計算するモデルをマクシミン期待効用理論と呼ぶ。これまでのマクロ経済理論では、主観的期待効用理論を用いた分析が主流を占めてきたが、本研究では、マクシミン期待効用理論を用いてマクロ経済現象を分析した。特に以下の点が明らかになった。主観的期待効用理論を用いた典型的な職探しモデルでは、平均保存的拡散でリスクの増大を表し、リスクが増大すると、職探しの期間が長引くことが示される。しかし、不確実性の増大は、むしろ職探しの期間を短縮すると考える方が自然である。と言うのも、将来がより不確実であるならば、とりあえず職を確保しようと失業者が考える方が自然と思われるからである。不確実性の増大をリスクの平均保存的拡散と解釈するのではなく、ナイト流不確実性の増大、すなわち有りうる確率の集合の増大とみなし、失業者がマックミン的行動を取ると考えると、ナイト流不確実性の増大は職探しの期間の短縮という直観的な結果を得ることがわかった。また、リアルオプションの分析では、リスクの増大がオプションの行使時期を早めるのに対して、ナイト流不確実性の増大はそれを遅らせることが分かった。直感的には、職探しモデルの場合では職を得ることが不確実性を回避することになるのに対して、オプションの行使は逆に不確実性に直面するからであると考えることができる。この他、ナイト流不確実性下の学習行動が、直観に反して不確実性の度合いを増大させることがわかった。また、マクシミン的行動の特殊ケースの公理化なども示すことができた。
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